「ブラック・コメディ~差別を笑い飛ばせ!~」黒人差別という絶望を希望に変えて。
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最終更新日:2015/06/27
お笑い, 映画, 社会, 自分との対談(日記) ウーピー・ゴールドバーグ, エディ・マーフィ, クリス・ロック, ディック・グレゴリー, デイヴ・シャペル, ビル・コスビー, リチャード・プライアー, レッド・フォックス, ロビン・ハリス, 黒人
(「ブラック・コメディ~差別を笑いとばせ!~」2009年米公開_監督・ロバート・タウンゼント)
「黒人にとってコメディは単なる娯楽ではなかった。絶望から気を紛らわすための表現方法だったのだ。」
というセリフから始まるドキュメンタリー映画。黒人という人種がアメリカにおいて、いかに虐げられ、そして、どのようにして笑いで昇華していったのかという歴史を知ることができる映画だ。以下は、その中で語られていた、コメディアンを中心に、この映画の言葉を引用しながらまとめてみた。
差別を笑いに変えて
当初、映画などで黒人を演じるのは黒塗りをした白人であった。しかも、その黒人は間抜けな役柄。つまり、茶化され馬鹿にされていた。その後、黒人は黒人が演じるようになっていくのだが、肌をより黒く見せるために、黒塗りをし、いままで通りに間抜けな性格で演じていた。そして、それを笑っていたのは白人であり、彼らが考える黒人像でしかなかった。
そこで、業を煮やしたかのように登場したのが、レッド・フォックス(Redd Foxx_1922~1991)
彼は、通常ならば語ることも出来ないことを笑いに変えた。「4歳のガキが便所に行った。おしっこしてたら便座が倒れて、ちんちん挟んだ!“ママ腫れちゃったよ”すると、ママは“お父さんのも毎日腫れてる”」
また、彼のネタは、全ての人種の心に響いた。
「白人諸君みたまえ。お互いを見ろ。諸君はただの白だ。では、我らは?色とりどりさ、クルミ色、アーモンド、チョコレート、モカかな、クジャク、バニラ、黄色、クリーム色、光の色、ほぼ白だね」
彼がいなければ、コメディの発展は何十年も遅れていただろうといわれている。
公民権運動、ベトナム戦争、アメリカ社会が混沌としていた中で登場したのが、ディック・グレゴリー(Dick Gregory_1932~)
「若者どもが言う。“18歳で選挙権をくれ”“18歳で徴兵されて戦死するんだ”それなら参政権は17歳からにしなきゃ」
政治に対しての風刺的なネタも取り入れた。人種問題も白人を笑わせているようで、アメリカの真の姿も捉えていた。
「白人ども何がほしくてコンゴに出兵したか。戦争花嫁さ」
彼は、キング牧師からの誘いもあり公民権運動にも参加した。理由は、怒りだけでは勝てないということを知っていたからだ。そんな彼の行動は多くの人たちを鼓舞し盛り上げた。この時代に、Niggerという黒人を侮辱する差別用語をタイトルにした自伝本を書いているのだが、その冒頭の文で「母への言葉」として記されたものは秀逸だ。
「“ママへ”“ニガーと言われたら僕の本の宣伝だと思って”」
現代コメディの父と称される、人物が登場する。ビル・コスビー(Bill Cosby_1937~)
彼は、万人受けするような家族をモチーフとしたネタで一躍人気になる。
「俺は、父親だ。家族で一番賢い存在だ。なぜ賢いかと言うと賢いからこそ馬鹿なふりができるんだ」
現代に受け継がれる系譜
自らの人生をネタにし、現代のコメディアンは、彼に影響を受けなかった人はいないと称された、リチャード・プライアー(Richard Pryor_1940~2005)
「白人は奴隷をムチ打った。枝を折って葉を取って作ったムチで。だから木を見るとぶっ殺したくなる。思わず車を止めて、この野郎伸びるんじゃねえ」
彼のレコードは、売れに売れた。それを聞くと誰もが強い気持ちになる。彼は、幼少期に酷い虐待を受けていたのだがそれすらも笑いにし、多くの人に勇気を与えた。ジェイミー・マサダから、こんなエピソードが紹介される。
「最初は、秘密だった。だが、貧しい子供の前に出たとき、彼はシャツを上げ背中を見せたんだ。そこには点々とタバコの跡が。きっと言いたかったのだろう。“お前らは俺よりマシだ。チャンスはある必ずこの国で成功しろ”」
そのプライアーに影響されて登場したのが、エディ・マーフィ(Edward Regan “Eddie” Murphy_1961~)
だが、影響されたといっても政治的主張をするわけではなく、ひたすらジョークを繰り広げた。そこには、人種に関することなど関係なくひたすら楽しむことが出来た。彼は、エンターテイメントに徹していた。その後、その人気ともに映画の世界に進出する。いままでの黒人は舞台上ではパワーを発揮していたが、映画になるとそれが発揮されなかった。しかし、彼は違った。初主演作「48時間」でのワンシーンがそれを象徴している。保安官の帽子を被った彼が、「“俺がこの街を仕切る”」と言った。
現代の黒人コメディアンは、テレビで黒人専門のコメディ番組があるというように細分化が進んでいるため、それに特化した笑いだけで成立してしまう。しかし、かつてエディやプライアーが行っていたようにいかに黒人以外も笑わせるかを追求したのが、クリス・ロック(Chris Rock_1965~)
「ヤツらはエイズを治さない、治療法を見つけたりしない、考えてもムダだ。薬売ったほうが儲かるからだ。ヤクの売人と同じさ」
彼の笑いは社会を皮肉り、それが本質をついているため共感を呼ぶ。そこには「“ファック”、“マザファッカー”」を連発するような下品なものではなく、知性がある。これからのコメディを支えていく存在だ。
コメディエンヌの存在も忘れてはならない。それが、ウーピー・ゴールドバーグ(Whoopi Goldberg, 本名: Caryn Elaine Johnson, 1955~)
映画では、アカデミー助演女優賞を獲得し、ブロードウェーでの一人舞台の講演回数は150回を超える。
「セックスも話もしたくない。お断り。イヤだと言わないで。何年も仕事に追われれば、セックスだって面倒になるわ。やりたいの?どこで?服脱ぐの?かったるいわ。」
黒人に受けるネタというよりは万人に受けるネタが多かったため、黒人社会からは批判を浴びることが多かったようだ。しかし、すっぴん姿で、飾らない服装は、女性を勇気づける存在としては唯一無二のものである。
1980年代後半になると黒人の資産家も増えるようになり、黒人経営の劇場が多くなる。
その流れの中、いままでとは違った人気を集める方法で登場したのが、ロビン・ハリス(Robin Harris_1953)
客に悪態をついたり、からかったりと批判を受けそうなネタが多かったが、どこか憎めないキャラクターで小さな劇場から口コミで徐々に人気を得た。エディ・マーフィーのように大作映画に出るというわけではなく、一般的な知名度は低いが、コメディアンたちの中では根強い人気を誇る。
そして、現代へ
90年代に入ると、デフ・コメディ・ジャムなどの人気番組から、黒人コメディアンが一気に増え人気を博す。そして、スパイク・リー監督の4人の黒人コメディアンのライブツアーを記録した映画「キングオブ・コメディ(2000年)」が封切られる。その4人は、現在でも人気を誇る、スティーヴ・ハーヴェイ、D・L・ヒューリー、セドリック・ジ・エンターテイナー、バーニー・マックだ。
黒人コメディアンの活動する場所も増え、2000年代に入るとそれが飽和状態になり、ショービジネス業界で消耗されていく。
キーネン・アイヴォリー・ウェイアンズいわく、「才能の需要は時に本来の才能を無視してしまう。だから、ヘタでもテレビに出てるだろう」と語っている。
また、現代コメディの父と言われるビル・コスビーは、あるスピーチで、黒人自身にも問題があると苦言を呈した。そのことで多くの批判を浴びた。映画の中でコスビーはこのように語る。
「客層は豊かになった。頭もいいし品もある。もう客席にマリファナを吸う80歳のばあさんもいない。いまの客は本当に知的になった。だが私たちは伝統の中で、成長しただろうか。(中略)黒人は社会から落ちこぼれる。高校中退率は、75パーセントに及び、十代の少女たちが、妊娠したと仲間内で堂々としゃべる。殺人にしてもそうだ。少年が少年の頭を撃ち抜く。うんざりだ。(中略)私はもう70歳だ。人によく言われる。“好きな場所で、葉巻でも吹かしながら悠々自適に暮らしては?”できるもんか、私は埋もれたくない。黒人問題は解決していない。引っ込んでどうしろと言うんだ。まだまだ騒動を起こすよ。」(映画とは関係ないが、2014年、ビル・コスビーに、レイプ疑惑が持ち上がった。その真偽のほどは不明だが、今後の展開に注目だ。)
2003年に「シャペルズ・ショウ」という番組が始まる。出演は、デイヴ・シャペル(Dave Chappelle_1973~)。
この番組で、強烈なエピソード(コント)は、“白人家庭に盲目の黒人が養子として向かい入れられる。その子どもは、親に白人だと信じ込まされて育つ。自分のことを白人だと思い込んでる彼は、成長するとKKKに入信し、白いマスクを被り、黒人たちを弾劾し差別する。”
人種問題を皮肉り、小ばかにした内容は、賛否両論の危ないものではあったが、多くの大衆を魅了し瞬くまに彼は、人気者になった。そして、契約金として5,000万ドルという破格の値段を提示されるようになる。だが、彼は、それを蹴り番組を降りてしまう。その理由をスタンリー・クラウチは、以下のように映画の中で語る。
「アメリカ資本主義の難題は、利益に良心と倫理をいかに近づけるかだ。なかなか融合しない。ゆえに人間を労働で縛ることはできないのだ」
また、コメディアンヌのソモアはこのように言う。
「コメディで自由を表現したくても、当の本人が自由になれない。コメディって何?」
黒人コメディの歴史を知ることが出来る貴重な作品が、“ブラック・コメディ~差別を笑い飛ばせ~”だ。人種が多様なアメリカならではの歴史だろう。抑圧から、逃れるための武器としての笑い。これが成立しなくなったら、本当にこの世界は危ういものとなるのだろう。
そして、最後の締めくくりは、この映画の中で、いままで、質問に真面目に答えていた出演者たちに「笑いはセックスよりいいか」という究極の質問で終わる。
おわりに
この作品は、Youtubeにて300円で購入(2日間のみ視聴可能)できるので、さらに深い内容が知りたい人は是非、観て頂きたい。ちなみに、私は、これを書くにあたって、2日間視聴可能な300円のものでなく、永久に観られる2000円のものを購入した。正直言って後悔している。2000円あれば、何本エロDVDを借りられると思っているんだぁ。こんな文章をかかずにマスをかけばよかったぜ。と下品に締めくくってみた。
おわり
みずしままさゆき を著作者とするこの 作品 は クリエイティブ・コモンズの 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
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