「フランケンシュタインが作り出した悲しき怪物は、いまだに作られている」
先日、撮り溜めしていたNHKの「100分de名著」をいっきに観た。
この回は、フランケンシュタインを取り上げている。くわしくは、こちらをご覧いただければと思う。(http://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/41_frankenstein/)
ここからは、私が観ながら、まとめた文章を自分の備忘録もかねてここに残しておこうと思う。(よくTVをメモりながら観たりするので、今後はこんな感じでのっけていけたらと・・)
フランケンシュタインの真実
フランケンシュタインと聞いてまずイメージするのがこれだろう。
しかしながら、これはフランケンシュタインではない。フランケンシュタインは怪物を作った科学者、ヴィクターの名字なのである。
イギリスの辞書(オックスフォード英語辞典)には、こう書かれている。
“シェリー夫人の小説「フランケンシュタイン」(1818年)の主題役で、人間の怪物を組み立てて生命を与えた人物。一般には、創り手に恐怖を与え、ついには破滅させる怪物を指す典型的な名称として隠喩的に誤用されている。”
この小説は、18世紀後半から19世紀初頭に流行していた超自然的内容を描いたゴシック小説のひとつであり、舞台化そして映像化という変遷を経て有名になった。
フランケンシュタインの意外な事実として以下の4つのものがあげられる。
- 怪物の名前ではない
- 怪物は読書家(ゲーテの本を読んだりしている)
- 本当は美しい文学
- 美と醜のコントラスト
作者は、メアリー・シェリー夫人という女性。この人も波乱に満ちた人生だ。16歳で駆け落ちし、周りでは不幸なことが多く起こる。長女が生後12日で死に、次女も1歳赤痢で死亡。長男3歳マラリアで死ぬ。それから義理の妹が自殺し、夫のパーシー・シェリーの元奥さんも自殺。死と正が入り混じりまさしく混沌という言葉がふさわしいだろう。
虐げられる怪物
この小説の語り手は、ウォルトン(北極大陸探検中、姉への手紙にて)という冒険家。旅の途中で、フランケンシュタインを作ったヴィクターに話を聞いたものをもとにはじまる。
ヴィクターは名家の生まれで、何不自由なく育った。ドイツの大学に進学し、生命の根源とは何かという研究に没頭し、死体を集めて人間を作りたいという野望が生まれる。
そこで、死体を継ぎ接ぎしてついに怪物が完成する。しかしながら、ヴィクターはこの怪物を虐げ追い出してしまう。
行きつく町々で、迫害された怪物は、人気のないみすぼらしい小屋に住んだ。その近くにドラセーという一家が住んでいた。怪物は、彼らの生活を盗み見し、そこで愛の存在を知る。それは、“痛みと喜びの混じり合ったものだった”。また、 “英雄伝”“失楽園”“若きウェエルテルの悩み”などの本を読みあさり、とくに“若きウェエルテルの悩み”から自殺という概念を学ぶとともに、主人公の感情に感動して泣く。
様々な読書体験を通じて、どうして人間は仲間を殺すのか。法律などなぜ必要なのか疑問に感じた。そして、人間が起こす流血の数々を知り憎悪という感情が芽生えた。
ドラセー一家と親しくなりたいという感情が芽生えた。だが、いままで、迫害されたことを考えると不安だった。そこで、盲目の老人だけがいるときに会いに行った。老人に告白する。友達に嫌われそうだと。ここで、「私は目が見えず、あなたの顔はわからないが、あなたの言葉には、何か誠実だと思わせるものがある。あなたは誰なのですか?」と問われ、怪物は、名前がなかったために、答えられなかった。名前がないことは存在していないのと一緒。怪物が見られる存在である限り受けいれられないことを意味する。
ヴィクターの兄弟、ウィリアムと出会うが拒絶され、醜いと偏見を持たれて絶望し殺す。※川で溺れていた少女を助けたが、銃で撃たれてしまう。
こういったことから、「人間=自分を作ったヴィクター」を憎むようになる。つまり、怪物が凶悪化したことには理由があるのだ。
科学者の功罪
メアリー・シェリー(著者)の母親は、“女性の虐待についての本”を書いている。ここに親子の共通点を見出すことが出来るが、徹底的に阻害されるという点でフランケンシュタインのほうが辛い。
怪物がついにヴィクターと対面する。そこで、理解してくれる女の怪物を作って欲しいと懇願する。しかし、完成間近の女の怪物をみてあまりの恐ろしさから、ヴィクターは衝動的に壊してしまう。
怪物は大いに失望する。そして、復讐心が巨大化する。
ヴィクターは、怪物と対照的な人物だが、もしかしたら、自分の中に潜む内面には怪物が潜んでいるのかもしれない。著者のメアリーは、“運命は性格が決める”ということを重要視していた。端役にも焦点を当てて描かれている。
ヴィクターはウォルトンの性格が自分と似ていると感じ、教訓になればということで身の上を話し出したようだ。
サブタイトルは、~あるいは現代のプロメテウス~。プロメテウスとは、「オリュンポスから天井の火を盗んで、地上にもたらした英雄であると同時にゼウスに背いた反逆者」
それは、ヴィクターが危険な科学者ということを意味し、科学者の心理とモラルを説いているともいえる。また、主人公が科学者であるという点が他のゴシック小説と一線を画し。世界で最初のSFとして「フランケンシュタイン」を捉えてもいい。(この辺りは、以前書いたゴジラの話と共通点があるだろう)
復讐心
復讐心が膨れ上がった怪物は、こんな台詞を言う。「覚えておけよ。おまえの婚礼の夜に、会いにいくからな」
そして、次々とヴィクターの周りの人を殺す。なぜ周りの人を殺すのか?これは、怪物が産みの親ヴィクターに対して、自分自身の孤独を分かって欲しいということではないだろうか。
やがて、ヴィクターは死ぬ。そして、怪物はヴィクターの前でこう言った。
「もう太陽や星を見ることも、そよ風が頬に触れるのを感じることもない。光も心も感覚も、消えてしまうのだ。だが、そうなることを、おれは幸せだと思わなければならない。(中略)いまは死ぬことだけが、おれの慰めなのだ。」
自分を作ってくれた人がいなくなることは絆がなくなったのと同じこと。だから怪物は悲しんだ。
この物語では、ときに人間でない怪物のほうが人間らしくみえる。
怪物はヴィクターの影の部分の表出。
ユング、いわく
影・・・無意識の暗い部分。
ペルソナ・・・社会に対して演じている仮面
また、時代背景から考えると
・フランス革命が起った、1790年代に物語上では怪物も産まれている。
・初版は1818年に発売。ナポレオン失脚が、1815年。何かの恐怖の暗示。
・この時代に忘れてはならないのは産業革命。労働者階級の急増。支配者階級にとっては脅威。なにか分からない恐怖は、怪物的存在を示唆。不安な時代の隠喩、象徴である。
その他に、怪物は女性という考え方もある。
・女性(イブ)は男性のあばら骨から作られた。怪物もヴィクター(男)により死体から作られた。
メアリー・シェリーは当初、作品を匿名で発表(女性が出版など許されなかった時代だから)。本自体が怪物。この本を醜いわが子とシェリー自身も言ってる。 また、この作品を書くにあたって、ミルトンの「失楽園」を2度読んでいた。神によって作られた、創造主と被造物。つまり、親と子の関係。虐待やネグレクトの関係。親の立場では扱いきれない怪物を恐れたヴィクター。怪物が、一番欲しかったのが親(ヴィクター)の愛情。それが叶わないと子どもは、歪んでしまう。
番組は、最後改めて、怪物が目の見えない盲目の老人に言われた言葉で終わる。
「私は目が見えず、あなたの顔はわからないが、あなたの言葉には、何か誠実だと思わせるものがある。あなたは誰なのですか?」
この、あなたは誰?と問われて、自分はなんて答えるか考えてみたが、果たして、「私は私である」と自信を持っていうことが出来るだろうか。
映画におけるフランケンシュタイン
番組では取り扱われなかった「フランケンシュタイン」の映画。フランケンシュタインの映画は、数多くあるが、その中でも私がすきなのが、1931年に制作された映画。
とりわけ、以下に張り付けてあるシーンは、酔っぱらっているときに観ると思わず泣いてしまう。
怪物の系譜
最後に、受け継がれる怪物の系譜を書いておきたい。
(番組内で、話題になったもの)
・ブレードランナー(映画)
・鉄腕アトム(アニメ)
(個人的に考えたもの)
・タクシードライバー(映画)
・エレファントマン(映画)
・シザーハンズ(映画)
・エヴァンゲリオンのシンジ君(アニメ)
というか、社会(親など)から疎外された人はみな一様にしてフランケンシュタインが作り出した怪物と共通する要素があるだろう。
最近話題になっている人工知能も、フランケンシュタインを考察することで非常に興味深く捉えることが出来る。その辺は、人工知能を扱った映画を参考に、おいおい考えてみよう。
おわり
みずしままさゆき を著作者とするこの 作品 は クリエイティブ・コモンズの 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
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