「天狼院書店の落語部で落語をやってきたってぇよ!!っていうお話」
まくら(はじめに)~天狼院書店で落語を~
先日、天狼院書店の落語部に参加してきた。今回で、2回目。前回のことは、ブログに書いてあるので、興味のある方はそちらをご覧頂ければと思う。
(「天狼院書店で泉水亭錦魚さんの落語を聞いてきた~そこは、本屋を超える本屋だった~」)
天狼院書店は、この落語を通して、知った本屋なのだが、試みが非常に面白い。つい最近は、劇団を旗揚げし公演を行い、さらに、雑誌まで発売している。そして、近々、このお店自体を劇場化したそうで、今後も目が離せない。
そして、そんな天狼院書店には、部活と呼ばれているものがある。取り仕切るのは、まぁ、部活でいうところの顧問になるのだろう、それは立川流の泉水亭錦魚さんという落語家さん。立川談志が好きなぼくにっとっては、立川流と聞けば、それだけで尊敬の念を抱いてしまう。その、泉水亭錦魚さんが、三席も落語を行い、さらにあり得ないほど身近で聴くことが出来る。それが、この部の大きな魅力だろう。また、部活というだけあって、参加者が演じてもいいという場が設けられており、そこで、ぼくは一席の落語を行った。
前回は、とりあえずどんなものかという興味で、参加したのだが、その帰り道、突如と落語を演ってみたいという衝動に駆られた。もちろん、生まれてこのかた、落語なんてやったことがない。だが、生まれもっての怠惰な性格故に、明日になってから落語を覚えはじめようということを繰り返していたら、次回の開催日、1週間前になってしまった。これは、やばいと思い、慌てて落語を覚えようとした。
まずは、何を行うかを決めなければならない。迷っていてもしょうがないので、前回参加した際に、この落語を覚えたらどうかと、錦魚さんが、最後に行ってくれた、「権兵衛狸」をやることにした。
資料集めということで、YOUTUBEに転がっている、「権兵衛狸」の映像を観ることにした。もちろん、立川談志を筆頭に、鈴々舎馬風(四代目)、桂枝雀という具合に何度も繰り返し観た。
だが、なかなか覚えられない。なので、書き起こして、覚えようと思い、なんとなく、気に入った鈴々舎馬風のもので書き起こした。それから、談志が落語のことについて、書いている本の中で権兵衛狸が載っている、「談志の落語 六」を購入した。
それらを作成し、ひたすら繰り返し、練習して、なんとなく流れをつかみ、あとは自分なりにアレンジしようと試み、落語部でお披露目する日を向かえる。
当日、立川流であり、落語も抜群に上手い錦魚さんの前でやるのは、如何なものかという気負いが出てきた。でも、覚えちゃったもんはしょうがないということで、思い切ってやってみることにした。
まずは、錦魚さんが2つの演目を行う。一席目は「時そば」、二席目は「寝床」(もしかしたら、「寝床」じゃなかったかもしれない、自分がこれから行うことに緊張してあまり覚えてない)。
それが、終わると、いよいよ、素人の人が演じる時間になる。今回は、3名が行うこととなった。自分1人でなくてよかったと少し、緊張がほぐれた。それぞれの、落語(一人のかたは、3つほどの愉快な小話であった)が終わり、最後に自分の番となった。
出囃子が鳴り、なれない足取りで、座布団に座る。お辞儀をして、あたりをみると、いままで観ていた景色とは違い、余計に緊張感がこみ上げてくる。とりあえず、くだらないまくらを言って、自分のものは、「落語」というより「戯言」という旨を伝え本筋に入る。ここから先は、正直なところ覚えていないので、以下にぼくが、行ったであろうものを思い出して書き起こしてみた。(実際は、ここに声のトーンや所作、間などが加味される。なので、そこら辺の普通の男が飲み屋で「これから面白いことをしゃべるよ」などと言って、全く面白くないという雰囲気を創造しながらお読み頂ければと思う)
「権兵衛狸」
狐狸が人を化かすなんてことをよく言う。だけんど、化かすのが上手いというのは、狐のほうがうまい。狸のほうは、ちょっとおっちょこちょいで、可愛いところがある。
むかし、山奥の田舎に床屋半分お百姓半分で暮らしている権兵衛さんという、人がおりまして、かみさんはもう綺麗さっぱりに亡くなっちまって、一人娘も里へ嫁にいっちまった。
夜になっていと、この田舎、お客なんて、来やしない。権兵衛さんやることないので、囲炉裏の前で一人ドデンとあぐらをかき、手作りのどぶろくっていう酒を飲む。飲みながら様々なことを思い出す。死んだ女房のこと。結婚当時の甘い楽しい思い出よ。キスの味。寝床でのあんなことやこんなこと。
「ごんちゃんやめてったら。そんなところ触らないで。もう助平なんだから。」
「なにいってやがんだ。いいじゃねぇか。」
「もうやめてったら。ごんちゃんのこのツルツルした頭。かわいいわね。坊さん抱いて寝てみりゃ、どこが頭やお尻やら。なんてね。」
「なにいってやがんだこの野郎。」
「あっ、ごんちゃん痛い。やめてぇぇ」
なんて、そんなことを考えながら、いい気持ちんなって、さて床に入って寝るべぇか・・・」ってえと、
「トントン権兵衛、トントン権兵衛」
「だれだ、錠かかってねぇし、まだ、寝てねぇ。こんばんは、冷える、一緒に寝るべぇ。」
「トントン権兵衛、トントン権兵衛」
「一緒に寝るべぇってのは、冗談だ。わかんだろ、そんぐれぇ。とにかく、相手の欲しい晩だ。入ってこぉ。」
「トントン権兵衛、トントン権兵衛」
「判ったよ。オラが行って開けるから。何度も呼ばれたんじゃしょうがねぇ。“ヨッコラショッ”、さぁ入ってこいや。オイ、あれ、いねぇのか。なんだ、この野郎。悪さこきやがって、全く。うん、今宵は朧月夜か。ああ、そうか、山の狸の野郎、浮かれて悪さしに来た。そうに違えねぇ。この、悪ダヌキめ。この野郎。」
てぇと、戸のほうへ手をかけ一旦閉めて、静かに、まっている。狸はそんなこと知らねぇ、また戸を叩きにくる。狸が戸を叩くとき、どこで叩くんだていうのが問題になる。中には、しりっぽで叩くんだっていうやつもおるが、しりっぽじゃあんな音はでない。あれは、骨がねぇから、フサフサってなっちまう。わが親友の青い狸、「ぼくドラえもん。のび太君。しずかちゃんのお風呂覗きに行こう。」なんてやつがいるんだけど、そいつが言うに、
「あのね、狸はね頭で叩くんだよ。ぐへへ。でも、ぼくは猫がたロボットだからね。」
なんて言ってやがった。だから、要するに戸にがっちりもたれて頭で。
「トントン権兵衛、トントン権兵衛」
権兵衛さん見計らって、ガァーって開けると、狸の野郎が、中に転がり込んだ、こん畜生ダヌキ。格闘十数分。権兵衛さんの、ジャーマンスープレックス、アックスボンバー、パワーボム、シャイニングウィザード、STFいろんな技が決まり、ノックアウト。狸は、子息を縛られて、天井へぶら下げた。
「この馬鹿野郎」
「ゴンべ」
「また、言いやがったな。朝んなったら始末してやるから、覚悟しておけ」
からすかぁで夜が明ける。
「おー権兵衛さんおはよう」
「おう、やけにはぇな、誰かと思えば、お前さんか。昨夜は、寝れなくてよ」
「寝られなかったのかい。しょうがねぇな、一人もんは。なんか、悩みでもあったんかい。」
「じじぃのおれにそんな悩みはねぇ。あるとすりゃ、そうだ、あれだ、その上にぶら下がってるあれだ」
「おー、こりゃまた立派な狸だこと。そういえば、最近、うちのカミさんになぜだかしらねぇが、浮気がばれちまったんだ。もしかして、この狸コウの野郎、悪さしやがったなう浮気を告げ口したのもお前だろ」
狸の野郎、耳に手を当てる。
「なんでぇ、この狸。おめぇが、いたずらしたのは知ってんだ。他にも、足袋が片方だけなかったり、春画がなくなったり、壁にバカ息子って書いたり、耳が聞こえないフリしたり、セイイエスって言ったり、てめぇの仕業だろう。白状しやがれ。この糞ダヌキ」
「あーーーー。あーーー。わたしは、わたしはーーー」
「うるせい野郎だ。どこぞの議員みてぇなこと言いやがって。よくみりゃ、ふっとってうまそうだ。どうだ、これぶっ殺して、狸汁だ。狸汁は埋めぇよ。そんで、皮は、おらにくれねぇか。皮むいてな、これなわしてな。おら婚約者がおってな。彼女にプレゼントしたる。そんで、残りは売るべぇ。それをもとに稼ぐべぇ。最後には、狸御殿でも立てべぇ」
「あーーーー。あーーー。わたしは、わたしはーーー」
「なぁにガタガタ言ってる。おら、殺さねぇよ」
「なぁにもったいねぇこと言ってんだゴンべ。あれ、ウメェのなんの。こんなタンパク質めったにねぇ。はやく、首ぶったぎっちまおう。このタヌコウを!!」
「あーーーー。あーーー。わたしは、わたしはーーー」
「おら、殺さねぇ。ちょうど今日がおっちんだ女房の命日だ」
「なんだぁよ。ぶっ殺しちまおう。そんで、食べよう。皮売ろう。儲けよう。ゴンべ。ゴンべ。ゴンべ。ゴンべ。あーーーー、ゴンベェーーーー。」
「あーーーー。あーーー。わたしは、わたしはーーー」
「2人して、うるせぇ。まぁ、聞け。ただ、逃がさねぇ。人間、ワリィこと、するとぼうさまにするから、この野郎もしてやろう。そんなことおらにとっちゃわけねぇ。腕には自信がある。カリスマだ。」
「カミサマ?あー、オーマイゴッド」
「何言ってやがる。カリスマ床屋だ。よし、この野郎、暴れんな。ほれ、ほらできた、狸坊主だ。さぁ、逃がしてやるからもう2度と悪さすんじゃねぇぞ」
縄、ほどいたんで、狸喜んで出ていく。
生き物を助けたっていうのは気持ちのいいもんで、その日一日権兵衛さんほがらかに仕事をした。
やがて、その日も日が暮れ、夜になり、例によって権兵衛さん。囲炉裏の前で一人ドデンとあぐらをかき、手作りのどぶろくっていうやつを飲む。飲みながら様々なことを思い出す。死んだ女房のこと。結婚当時の甘い楽しい思い出よ。キスの味。寝床でのあんなことやこんなこと。
「ごんちゃんやめてったら。そんなところ触らないで。もう助平なんだから。」
「なにいってやがんだ。いいじゃねぇか・・・・・・」
なんて、そんなことを考えながら、いい気持ちんなって、さて床に入って寝るべぇか・・・」ってえと、
「トントン、権兵衛さん。トントン、権兵衛さん。」
「なんだこの野郎、またきやがったな。この馬鹿ダヌキ。せっかく、助けてやったってのに。」
「トントン、ゴンちゃん。トントン、ゴンちゃん。」
「この野郎。さんだの、ちゃんだのつけて、詫びてるつもりか。畜生。こうなったら、とっつかまえて狸汁でもなんでもしてやる」
怒った、権兵衛さん。ソーッと土間へ降りて、待ってるってえと、
「トントン」
ガラッと開けたら、狸の野郎顔を出して、
「今晩は、髭をやって下さい」
とサゲを言って、無事に、いや、無事とは言い難いが、なんとか終えることが出来た。気持ちとしては、フルマラソンをなんとか8時間ぐらいかけて走り終えたという感じだろう。まぁ、内容よりは、やったことに意義があるのだ!!と自分を慰めておこう。
最後に
次回も、何かお話を覚えることが出来たら、今度はもう少しうまく出来るよう練習したい。ちなみに、その日の夕飯は、帰りしなにスーパーによって、そばを買って食べた。なぜなら、錦魚さんがやってくれた、「時そば」があまりにも美味しそうだったからだ。自分も、あんな風になんて生意気なことを考えながら、さぁて、眠ろうとしたってときに、
「トントン、トントン」
とだれかが、扉を叩く音が聞こえた。さては、狸の野郎が悪さしに来たな・・・・・・。
おわり
みずしままさゆき を著作者とするこの 作品 は クリエイティブ・コモンズの 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
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