「中野にある、”お笑いライブ スピン!”という誰でも出演できるLIVEに参加してみた」
スタンドアップ・コメディ
あれは、たしか3月31日だった。 “お笑いライブ スピン”というものに出演した日。
きっかけは、「The Original Kings of Comedy」という1本の映画。
観終わると、人前でスタンドアップ・コメディをやってみたいという衝動に駆られた。とにかく、カッコいい。そこらへんのチンピラみたいな風貌で、舞台にあるのはマイクだけ。身振り手振りを交えて喋り、会場は笑いの渦となる。ただそれだけ。本当にただそれだけなのだ。誰にだって出来るのかもしれない。だから、俺は簡単に騙された。
数日後、とあるテレビのドキュメンタリーで売れない芸人が取り上げられていた。なんとなく観ていると、「この日は、誰でも出場できるLIVEに出演する」というナレーションが流れた。「いま、なんて言った!?誰でも出場できるって言ったよな」俺は、スマホで“お笑い 誰でも出場”と検索した。するとトップに出てきたのが、“お笑いライブ スピン!”というもの。3000円(チケット代)を払えば誰でも出られるようだ。酒に酔っていたせいもあるだろう、俺は出演のメールを送っていた。
出演日は約2週間後。いままで、ネタなんて考えたことはなかった。何をどうしたらいいのか分からず途方に暮れていた。しかも、出演時間は3分。こんな短さでは、俺がやりたいスタンドアップ・コメディなんて出来やしない。この短さであれば、何かのキャラクターに扮してやる一発ギャグの連続のようなものがいいのかもしれない。だが、違う。俺がやりたいのは、スタンドアップ・コメディなのだ。
時間なんて気にせず自分がやりたいものを思いつくまま書き、なんとか完成した。
ネタ(仮)
どんな美男美女でも、クシャミをするときの瞬間って不細工ですよね。
「ハァッ・・・・・・・」
ってなった瞬間です。
とくに花粉症のこの季節。至る所で、クシャミが頻発しますから、こうなった瞬間、携帯のカメラで捉えて、
「ねぇ、ねぇ、こんな不細工な顔」
って見せてあげて、ありのままの姿を見せるというのを趣味にしている、私がみずしまです。
そういえば、みなさん花粉症は大丈夫ですか。ちなみに会場の中にはどれぐらいいますかね。あーなるほど。ちなみに私は花粉症ではないので、そういう人を見つけると心の中でガッツポーズしてザマァみろと思っていますけど、花粉症って鼻水とかクシャミとかが止まらないんですよね。
クシャミといえば、よくオッサンで、
「ハックション、ちくしょー」
っていうじゃないですか、この「ちくしょ」ってつけるのは、クシャミに対する魔よけの意味があるそうなんですけど、そんなことは聞いている人にとってはどうでもいいことで、なんか、腹立ちますよね。気持ち悪いし。耳障りですし。とくに私は、この世の中でオッサンが大っ嫌いなんで。なんなのオッサンて。ちなみに、オッサンにそのことを言ってみたら、オッサンもオッサンが嫌いだそうですよ。あっ、ここにオッサンはいませんよね!?
どうせなら、もっと可愛らしい言い方のほうがいいじゃないですか、そこで考えてみました。
「ハックション、ミッキーマウス!!!」
このように最後にミッキーマウスということによって、可愛いいクシャミになりますよ。「あれ?ここディズニーランド!?もしかして、あの人ミッキーマウス!??」みたいになるでしょう。それで、飛び散る唾は、パレードのごとき輝きを生み、全然汚くないですよ。
これは、とある街の話です。電車に女子高生が乗っていました。すると突然、
「ハックション、ミッキーマウス!!!」
隣にいたオッサンが変なクシャミをしました。女子高生は、「あれ!?なんだ、絶対ミッキーマウスって言ったよな、でも・・そんなはずはない、空耳かぁ・・・」と思っているとまた、
「ハックション、ミッキーマウス!!!」
そして、立て続けに「ハックション、ミッキーマウス!!!ハックション、ミッキーマウス!!!」クシャミをして、女子高生は心の中で、「なんだこのクシャミ、チョーウケるんだけど」ってなって笑っていました。
そして、学校で友達に、
「ねぇねぇ、きょうさ、クシャミをした後にミッキーマウスって言った人みたんだけど。チョーウケない!?ミッキーマウスだよ!!」
すると、
「何言ってんの?そんな人いるわけないじゃないの」
「いや、マジでいたんだよ」
「前から私、思ってたんだけどあんたのそのくだらない嘘、マジウザいんだけど。もう話しかけて来ないで、キモイ・・・ってか嫌い・・・」
信じてもらえない上に、嫌われてしまいました。その日からその女子高生は、上履きの中に画びょうを入れられるといういじめにあったそうです。
でもね、その女子高生、悔しかったんです、悲しかったんです。だって、事実ですからね、そのオッサンのくしゃみは。だから、電車に乗ってそのオッサンが来るのを、来る日も来る日も待っていました。すると、ある日突然、やってきましたお目当てのオッサンが。奇跡は、努力を続けていた人には必ずやって来るんですよ。
しかしですね、こういうときに限ってなかなかクシャミしないんですよ。よくあるじゃないですか、お腹痛い、っていってトイレに行ったらプーッって、おならしか出なかったみたいな。あれ、この例えあってますか!?でですね、女子高生はこういうこともあろうかとコショウを持参していたんです。そして、オッサンの前でさりげなく、ファサファッサー、と振りかけました。
「ハ、ハハッハ、ハッ・・・・・」
この瞬間を待ってましたとばかりに女子高生、スマホを構え、
「ハハハッハハクション、ミッキーマウス!!!」
ついに動画で撮影することに成功です。
そして、学校に行きそれを友達に見せました。
「あっ本当だ。ミッキーマウスって言ってる。超ウケるんだけど。その動画、私にも送って!!でもね、あんたのこと嫌いなのは変わらないからね!!!!」
まぁ、二人の仲のことはとりあえず置いておいてですね・・・・・・、それで、その友達が、ツイッターとかのSNSにアップして、
「ハックション ミッキーマウス!!!!」
っていうのが、日本各地に広まっていくわけです。
それが変な方向にいっちゃって、これを観たら幸せになれますとかね。一方、オッサンは、そんなこと知らないんで、いつものようにクシャミをすると、なぜか、顔を指されるようになり、勘違いするんですね。「おれってかっこいいのかもしれない」なんて思うようになり始めて、オッサンは調子に乗ります。調子にのったオッサンほど達悪いものはないですよ。そんなオッサンも私は嫌いです。
そして、世界にまでそのクシャミが広がり、ついに、あのウォルトディズニーカンパニーの耳に入るわけです。ディズニーと言えば、ミッキーマウスの著作権が切れそうなときに著作権を伸ばしてきたっていう歴史があります。著作権はミッキーマウス保護法なって言われてますからね。それぐらい権利に関しては厳しいんですよ。そんな天下のディズニーの幹部達が、集まってこの現象について話し合いました。
「ファッキンジャップ。ファッキンオジサン。ムカつく、オーキルユー。マザファッカー、ミッキーマウスオジサン、オッサンバカアホクソウンコ」
ってな感じでね。
ある日オッサンのもとへ
「私はこういうものです」
「なんだ、お前は!?」
「あなたは許可なくミッキーマウスを使用しましたね。証拠は挙がっております」
「私が何をしたと言うんだ」
コショウをひとふり。
「ハハハックション ミッキーマウス!!!!!!!!」
「よし、連行しろ」
「待ってくださいー」
連れ去られたオッサンは、ディズニーランドの地下にて、恐らくカリブの海賊かなんかの下あたりですよ。そこで、多額の賠償金を請求されます。その額なんと100億円。いままでにやったクシャミの回数を考えるとそれぐらいになるそうです。でもオッサンはしがないサラリーマン。手取り、16万でそのうちの半分はディズニーランドではなくソープランドに消えてしまうという。私は、むしろそっちのほうが夢の国だと思いますけど、それで、オッサンは払えないと言うと、
「じゃあ体で払ってもらおうか」
と言われて、手術室のようなところに連れられて行きます。体を縛られ、なんかおっきい耳やら、白い手袋やら、オーバーオールみたいなのをこうやって・・・・・
「やめてくれーーーー!!!」
オッサンの悲鳴がある夜のディズニーランド中に響き渡ったそうです。このようにして世界各地でミッキーマウスは大量生産されるそうです。みなさんもクシャミにはくれぐれもご注意ください。
本番を向かえる
書き終わって、声に出して読み時間を計ってみると10分を超えていた。削るしかない。しかたなく、不要な部分を削り何度も推敲し、なおかつ早口で喋ることでぎりぎり3分におさめるネタに仕上げた。
そして、3月31日。
仕事を早々に切り上げ、会場である“なかの芸能小劇場”というところに向かった。
(画像は、なかの芸能小劇場サイトより引用)
中に入ると、出演者いわゆる芸人がウヨウヨといて、張りきった声で「お疲れ様です」と挨拶された。軽く会釈をしてあまり人がいなさそうなところに行って受付がはじまるのを待っていた。コンビで漫才やコントをする人はお互いの相方と話し合ったりしていて羨ましく思えた。
しばらくすると、受付がはじまり、会場となる劇場内に出演者は入るように促された。キャパは100席ぐらい。そこで、進行手順などの説明を受ける。芸人は総勢で30~40組ほどいて、俺の出番は、最後のほうだった。
やがて、本番が始まる。自分の出番までだいぶ時間もあり、出演者も観客席で観ていいとのことだったので、観ることにした。見渡すと客なんて2~3人ぐらいしかいなかった。それは当然なのだろう。ここにいる芸人はみんな無名だ。わざわざ見に来る客なんていない。
ネタを観ながら、「あっ、全然ウケてない。よかったぁ、これなら俺でも大丈夫だ。いや、これは酷いな。なんで、面白いのに笑わないんだろう」などと思いながら観ていた。客は入れ替わり立ち代わりやってきて、すぐにいなくなる。おそらく、出演している芸人の友達かなんかなのだろう。そして、刻一刻と自分の出番が近づく。
劇場を出ると、通路の壁で出番を迎える芸人たちが壁に向かって練習をしている。自分の出番まで、俺も壁に向かってネタを練習した。
まもなく、本番。舞台袖にスタンバイする。小声でネタを呟きながら。「ありがとうございました」、舞台が暗転し出番の終わった芸人が袖へとやってきた。いよいよ、俺の番だ。「続いては・・・・・」名前がコールされて、暗闇の舞台へと向かった。
明転した客席を見渡すと、客なんてほとんどいなかった。覚えたネタを、機関銃を乱射するが如く喋った。そして、ところどころ噛んだりネタを飛ばした。最後のセリフを言って、「ありがとうございました」と締めて舞台袖へと戻った。笑いが起こったかなんて覚えていない。緊張していた。それも、いままでに味わったことのないぐらいの緊張だった。
帰り道、コンビニによってポカリを買った。そして、一気にガブ飲みした。このときのポカリは、いままで飲んだ中で比べものにならないほど美味かった。でも、もう二度と味わうことはないだろう。
おわり
みずしままさゆき を著作者とするこの 作品 は クリエイティブ・コモンズの 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
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