『黒澤明監督「生きものの記録」は最も優れた原水爆映画だ!!~おすすめ黒澤映画、ベスト3もあるよ~』
はじめに(まくら)
今回載せるのは、だいぶ前に書いたもの。以前も違うブログに載せたことはあるが、改めてこちらに掲載。決して、更新を怠っているわけではなく、ただ、新しい年を迎えたので、めでたいということで、右手を使いすぎて痛くなったというか、ねん挫したというか、腱鞘炎というか・・・・・・。(なぜ、右手かというのはご想像にお任せ致します)
とくだらないことはさておいて、この場をかりて告白をしたい、ぼくは、黒澤明の映画を全部みています!!いや、。2、3作品は観てないかも・・・。
そんな、黒澤明好きを告白したところで、おすすめ黒澤映画ベスト3をあげたい。あくまでもおすすめなので、当然、生きとし生けるものならば観ているはずである「七人の侍」などはあげない。
まず、
第3位は、「姿三四郎」(1943年公開)
この作品は、黒澤明の初監督作品。なぜ、おすすめかというと、映画好きみたいな胡散臭いおっさん上司とかに、絡まれたときに対処するためである。
例えば、こんなときに有効だ。
飲み会で映画の趣味などを聞かれた若者が、おっさん上司にこう言った。
「わたし、映画好きなんですよ」
すると、おっさん上司が、
「おい若者、「七人の侍」とかは観たことあるかい?」
「いや、ないです。というか、いまのハリウッド映画しかみてないです。アベンジャーズとか面白かったですよ!!」
「は?これだから、いまのゆとり世代はだめなんだ。映画好きなら黒澤映画をみなさい!!人生の勉強になるからね。もっといえば、ハリウッドに黒澤映画は影響を与えているからね」
「そうなんですか。あっ、でもわたし、「姿三四郎」っていうのは観ましたよ!!」
「は?」
「知らないんですか。馬鹿なんじゃないんですか。黒澤明の初監督作品ですよ。」
「いや、まぁ、そういうマイナーなのはさ・・・・。それより、「生きる」とか・・・・」
「何言ってるんですか。初監督作品を観ないで、語ろうとしてるんですか。というか、おっさん脇汗凄いですよ!!臭いですよ!!!」
っていうやり取りをすることが出来るからだ!!
はい、続いて、
第2位は、「隠し砦の三悪人」(1958年)
いわずと知れた、スターウォーズに影響を与えたとされる映画。まぁ、ジョージ・ルーカスはかなりの黒澤好きだから。スターウォーズのダースベイダー役に三船敏郎を起用したかったが断られたなんてエピソードもあるし、他にもこんな話がある。どうしても、「乱」を撮影したかった黒澤だが、内容が暗いうえに、莫大な予算がかかりそうな企画だったため、日本の配給会社はどこも協力してくれなかった。そんな中で、力になったのが、ルーカスやコッポラたちだったそうな。
かつて、合コンみたいな飲み会で、
「わたし、好きな映画は、スタウォーズ。DVD全部持ってますよ」
という女の子がいたので、すかさず、さっき書いたような薀蓄を言ったところドン引きされたという経験がある。だから、こういうネタはこの世から抹殺しておいたほうがいいだろう。そういうときは、
「俺も好きなんだよね。チューバッカって可愛いよね」
「うん。私も好き」
「ね。まるで、君みたいだもんね!!」
とでも言っておこう。
はい、それでは、
第1位の発表です。
さぁ、
第1位は、「生きものの記録」(1955年)
生きものの記録という映画を知っている人はどれぐらいいるだろうか。黒澤明の映画といえば、なんでしょうという質問があったら、100人中答える人はゼロに近いだろう。内容は、タイトルから察するに、なんかの生きものの研究をしている学者の話かと、思うが全くもって違う。日本に原爆が落ちると怯えるおっさんがいて、それによってその家族が右往左往するという話だ。
より詳しいあらすじはこちら。
一貫して反戦を訴え続けた黒澤明監督が、過熱する米ソの核軍備競争や1954年に起きた“第五福竜丸事件”などで盛り上がる反核の世相に触発されて原水爆の恐怖を真正面から取り上げた異色のヒューマン・ドラマ。町工場を経営する財産家・中島喜一は突然、原水爆とその放射能に対して強い恐怖を抱くようになり、地球上で唯一安全と思われる南米ブラジルへの親類縁者全員の移住を計画する。しかし、このあまりにも突拍子もない行動に対し、現実の生活が脅かされると感じた家族は喜一を準禁治産者として認めてもらうため裁判にかけるのだった。(allcinemaより引用)
さて、ここからは、冒頭で述べたようにかつて書いたものになる。
『黒澤明監督「生きものの記録」は最も優れた原水爆映画だ!!』
(1955年公開監督・黒澤明 主演・三船敏郎「生きものの記録」)
まずは、この映画を観るために必要な核兵器に関する時代背景から考えていきたい。
広島・長崎に原爆が落とされて一年も満たない1946年7月1日、アメリカが太平洋のビキニ環礁でさらに大型の核実験を行う。
1948年5月17日、アメリカが再び核実験。
1949年9月、ソ連が原爆を開発したと公表。
朝鮮戦争勃発から5ヶ月たった1950年11月30日、ハリー・トルーマン米大統領が、朝鮮半島での核兵器使用もありうると発言。
1952年、イギリスが初の核実験。同年11月アメリカが、太平洋のエニウェトク環礁で初の水爆実験。
1953年8月、ソ連が水爆実験。
1954年3月1日、アメリカの水爆実験により、ミクロネシア島民や日本の漁船「第五福竜丸」の乗組員が被爆。9月23日、この時の被爆がもとで、乗組員の一人である久保山愛吉さんが死去。
1951年9月、GHQ占領の終結に際して調印された日米安全保障条約により、アメリカは、日本に軍隊を維持する権利を手中に収めていた。
冷戦時代のアメリカの世界戦略によって日本も関わらざるえなくなる。広島に投下された原爆の破壊力は12キロトン、長崎は22キロトン。その後、急速なスピードで、核の破壊力はキロトンからメガトンへと進化していく。
1954年3月にビキニ環礁で行われた15メガトンの水爆実験が行われる。
ビキニの水爆実験がテレビでながれていたころ、数多くの黒澤映画の音楽を担当している早坂文雄の家で黒澤明はこう言われた。
「こう生命を脅かされていては、本腰を入れて仕事もできない」
彼は、胸の病気を患っていて何回も生死の狭間をさまよったことがある。そんな彼が言うのだから、それをテーマに、原水爆に脅かされている人間を主人公にしたものを書いてみようとなった。(この作品が早坂文雄が音楽を担当した最後の作品になる)当初、黒澤は、核兵器に対しての直接風刺を試みたがそれをするのを止めた。
そこで、人間の内面的なものを考えた。なので、この作品は、原水爆実験やめろというようなプロパガンダ的なことを語っているわけではない。
一つの家族に原水爆の思想が介入することで、どのように生き、どのように崩壊していくかを語っている。
さきほど述べたように、1954年の水爆事故が映画の作るきっかけになったのだが、この時代の日本人は一部では反対の運動が起き(水爆実験に対しての)その後、沈静化する程度の問題だった。映画の公開パンフレットにはこのようにかいてある。
「この水爆の恐怖を他の動物が知ったならおそらく本能的な行動を起こすだろう。少しでも安全な場所を探しそこへ向かって種族保存の本能から大移動を起こすだろう。この主人公は人間として欠点だらけかもしれない。しかしその一見奇矯な行動の中に、生きものの正直な叫びを聞いてもらいたいと思う」
狂気に陥った人間が最も正気な人間で、その正気な人間を法律というもので縛り付ける。
そのことによって、本当に狂って「ああ、地球が燃えとる、地球が燃えとる」と叫ぶ。
また、この作品は家族というものが大きなキーポイントになっている。この時代では特に、父親という存在が家族の中での象徴、大黒柱として崇められていた。だが、その権力をもってしても原水爆の恐さを説得することが出来ない。この中島の家族を日本という国家単位で考えるとしっくりくると思う。そうすると、原爆投下という惨劇を過去のものとして忘れ去られていく怖さがメタファーとなっていることが分かる。
この「生きものの記録」が公開された時代は一歩間違えれば核戦争が起こりかねなかった。その恐怖を危惧して映画というものの中にメッセージをこめた。その過去の遺産を改めて見直し、人間がどのようにその不安と戦い解決しようとしたのかを知るべきだ。だが、いくら少数の人間が未来に対しての不安を語ったとしてもいまの日本では、「生きものの記録」の中島のようになってしまうのだろうか。
おわり
参考文献
戦後映画の展開 緑川享著 岩波書店(1987)
黒沢明 橋本勝著 現代書館(1996)
黒沢明伝 三国隆三著 展望社 (1998)
ヒバクシャ・シネマ 編著者ミック・ブロデリック 現代書館(1999)
みずしままさゆき を著作者とするこの 作品 は クリエイティブ・コモンズの 表示 4.0 国際 ライセンスで提供されています。
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